迷える仔羊はパンがお好き?
  〜聖☆おにいさん ドリー夢小説

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ブッダとイエスと、
彼の親愛なる弟子二人にまでご協力いただいた
“速報! 師匠はネトゲ廃人だった”大作戦は敢えなく失敗に終わった。
あの後、嬢が召喚した イベリコブー(ピンク)が、
何と幻のキノコ“トリュフ”を2つも発見してしまい。
周囲に居合わせた方々から、
レアな映像をありがとうと大歓声つきで感謝されまくりつつ、
今からラスボスを倒しにゆくという、
なかなか勇壮なパーティーの皆さんへ格安で譲って差し上げて。
…格安と言っても ゲームの中なので不正は無しの相場価格、
初心者がその行動範囲内で揃えられる
最強の装備を一気に得て、
ポーションも持てるだけ買えてしまえるほどもの
結構な資金を得られたところで。

 【 …これでは、
   ますますと懐ろが温かくなるばっかかも知れねっすね。】
 【 そういうのが目的のパーティーなら、大助かりでしょうが。】
 【 う〜ん。】

どんな魔王でも一撃で倒すぞとの意気込みも熱いとか、
装備やアイテムを
コレクションするのが目的とかいうパーティーならいざ知らず。
我らがネトゲ聖人の活動目的は、
フィールド内グラフィックの中から、
珍しいキノコを手づからゲットすることなので。
潤沢な資金よりも、むしろもっと難しいもの、
ゆったりはまれる時間がほしいクチだったりするのだし。
それより何より、

 『キノコの菌からの発酵という、
  奇特なインスピレーションが沸いたからなのですねっ。』

パン作りよりゲーム好き…と見せかけ、
実はそうまで怠け者だったと知らしめることで、
情けないとか見損なったとかいう方向で幻滅させるはずだったのに。
そのオンラインゲームもまた、
匠がその職人魂を育み、新しいヒントを得るための、
妙なる ゆとり空間なのだろうとばかり、
何とも盛大に勘違いされてしまったのだから、
これは確かに、作戦は大失敗に帰したとしか言いようがない。

 【 イエス様、どうか気を落とさずに。】
 【 ブッダ様も、…様にもよろしくと。】
 【 ああ、うん。伝えておくよ。】

落胆ぶりを隠す意味合いもあってのこと、
小一時間ほど探索プレイをしてから、
それではそろそろ戻ろうかと、
ログアウトした彼らだったのだけれども。

 “イベリコブーの功績の他にも、
  幻の隠しイベント、
  聖なる泉の金の斧と銀の斧まで引き当ててしまうとは。”

傍から見ていたブッダには
最初どういう意味の出来事かよく判らなかったのだけれども。
パーティー内の最強の得物を落とした泉から癒しの女神が現れて、

 『あなたが落とした装備は、
  とても高価なこれか? 使うたびHPが充填されるこれか?』

なんて文言で尋ねられる。
あの有名な童話と同様、
落としたのはノーマルな装備ですと正直に答えれば、
その装備のパワーを 当社比150%アップに改造して返してもらえるが、
欲をかいたり、若しくは好奇心から 違うものを選んでしまうと、
確かにそれを賜るが 同時に強烈な“呪い”という罰が下されてしまい、
エンカウントしまくりの呪いにより、
装備を外せる特別な教会へ辿り着くまで、
悪魔たちの地獄のような急襲に遭いまくる…と訊いてはいたけれど。
今まで開いた人は一人もおらず、
都市伝説か、若しくは ふかしじゃね?なんて言われていたものが、
その幻のイベントに大当たりしたその上、

 “まさか いのちのゆびわタイプを選び掛かるとは…。”

どちらかを選べというのならと単純に解釈したか、
じゃあと指差しかけた“いえっさ”だったのを。
パーティーのメンバーのみならず、
周辺に居合わせたギャラリーの皆様までが
“え〜〜〜〜〜〜っっ!!”と叫んで制した大騒ぎになったほど、
ある意味 結構な盛り上がりとなり。
これを仕掛けたプログラマーは、
見つかった口惜しさが吹っ飛ぶくらいには、
溜飲が下がったに違いない。
そんなこんなという おもしろおかしい冒険となったのも、
新参者だった人の天運が関わったように思えてならずで。
思う道を進めないという身の上とか、
家出して来てまですがった伯母さんとやらが、
間が悪くも長期出張していてすれ違った不運とか。
気の毒な面から接したので気がつかなかったけれど、

  もしかして このお嬢さんたら、
  実は最高に機運がいい人なのかもしれない?

つか、天然だから何かと気づいてないだけかもですが。(苦笑)
何を例として挙げるより、
こちらの最聖人ふたりとの出会いが何よりの幸運ではなかろうか。
ただし、それへは逆に
該当者本人たちが一向に気づいてはいないのでしょうから、
早くそこに気づけと言われても、ねぇ?(う〜ん)

 「ブッダさんの作るお料理って美味しいですよねvv」

ゲームから離れたのが正午を回った時間帯とあって、
さあさご飯にしましょうねと。
カリカリの揚げ麺へとかける、
野菜たっぷりの中華あんかけをメインに。
ざっと茹でたインゲンの歯ごたえが楽しめるごま和え、
ホウレン草を炒めたところを
ふわふわな半熟でからめた卵とじというラインナップを
小さな卓袱台にところ狭しと並べれば。
思わぬサプライズパーティーでも受けたかのように、
お眸々をうるると潤ませつつ、
うわあ・うわあvvという感動しきりで
それは嬉しそうに食べてくださったお嬢さんであり。
素直な感動から褒められてのこと、
こちらでも嬉しそうな含羞みを見せつつ、

 「さんの佃煮だって。」

ブッダもまた、お料理魂を刺激する逸品への感嘆しきり。
ホウレン草を炒めたフライパンを“お借りしますね”と手にとって、
薄揚げとしらたきのと、
ちくわのという2種類の…あくまでも佃煮を、
またもや さっと作ってしまった彼女であり。

 「こんな短時間しか火を通していないのに、
  何でこうまで染みてるかなぁ。」

 「チクワもゴマ油が利いてて美味しいーvv」

やあ今日は御馳走がいっぱい過ぎると、
にこにこのイエスなのは ブッダとしても見ていて嬉しいものの、

 “…でも、なんで?”

ここまで美味しく、しかも手際よく作れる腕前なのに、
どうしてはそんな自分を認めないのか。

 “そういえば。”

は日頃からも佃煮を持ち歩いていたようで、
いくら上手に作れたって食べるのは嫌い…という傾向なお人でもなさそうだ。
昨日から出しているメニューはめん類とご飯ばかりで
パンは一切口にしてはないし、それを不思議がりもしないのも妙なこと。

 “…まあ、作るからって
  食べるほうでもそれ一辺倒なほど好きかは別だけど。”

好きが嵩じて作るようになったって順番ならいざ知らず。
作る手際に飽きてのこと、食べたいとは思わない場合もあるやも知れぬ。
あんまり好きじゃないものを、
でもでも最高の出来に調理しちゃえる人だって、
もしかして 居ても不思議はないのかも。

 “まあ、そこはさておいて。”

自惚れて言うのじゃあないけれど、
ブッダの自慢の料理を美味しいと言ってくれたことからも、
彼女が味音痴ではないのは明白であり。
となると、
自分の作る佃煮がどれほど上級かも判っているはずだというに。

 これから正式な修行に入る身…となる筈の自分が、
 何の苦もなくの楽してというレベルなのが、
 何とはなく気に入らないのだろうか。

胸のうちでの呟きがついつい洩れてしまったものか。
神通力によるテレパシーを拾った相棒が、
修験の道をこよなく愛す友へ思わずの苦笑をし、

 《 いやいや、
   誰も彼もが君のように
   苦行を通して実感しまくっている訳でなし。》

 《 ……何か言ったかい、イエス?》

ほのかにその輪郭が光り出したブッダだったのへ、
あわわと慌ててお茶椀へお顔を伏せたイエスだったれど。

 “…う〜ん。”

やはりやはり謎の多い彼女であるには違いなく。
この年頃のお嬢さんは
このくらいトンチンカンで丁度いいものなのかなぁ?と、
今更ながらに小首を傾げてしまったブッダ様だった。

 「あ、お代わりいかがですか?
  たんと食べてくださいね?」




     ◇◇◇


楽しい昼食を終え、食器を片付けてのさて。
冷蔵庫の中を一通り確かめてから、
Jr.の腕へと引っかけてあったトートバッグを手にしたブッダだったのへ、

 「お買い物ですか? あ、私もお供します。」

食後は体温が上がると笑うイエスを、
甲斐甲斐しくもウチワで扇いでいたが、
パッと気づいての、玄関まで向かうブッダへと歩み寄ってくる。

「え? あ、いいよ、そんな。
 女の子に荷物持ちなんてさせられない。」

今日の売り出し品にはそれほど食指も動かされないし、
それほどの大荷物となる予定はないけれど。
だったらだったで、
カバン持ちを喜々として引き受けそうなのが今から察せられ。
そんな構図って ちょっと…と、逃げ腰になったブッダだったのへ

「何を仰せですか。
 私はイエス先生の弟子なんですから、
 何でもお手伝いしなくては修行になりません。」

修行を始めたばかりの小坊主よろしく、
ちょいと融通が足りない、所謂 利かん気を見せての
そりゃあ生真面目に言いつのる彼女であり。

 「でも…。」
 「手伝わせてくださいよぉ。」

すがるような彼女のその向こう、
もっとすがるような、目尻さげさげのイエスなのに気がついて、

 《 ど、どうしたの、イエス。》
 《 お願いだから、彼女と二人きりでのお留守番は勘弁して…。》

涙目にならなくともと呆れつつ、そうだよねぇと納得もする。
圧しに弱い自分だという自覚はあるらしく、
セールスマンが苦手なのもそこに起因しているくらい。
それに加えて、イエスへまっしぐらする彼女なのが明白なのを、
自分一人で上手くあしらっての捌き切る自信もないのだろう。
一見、どうしたもんかという綱引き状態、
三人して立ち尽くしかかっていたところへと、

 「あ…そうだ。
  私のパンを食べていただけませんか?」

小さなお手々をポンと胸の前で合わせ、
がいきなりそんなことを言い出した。

 「え?」
 「だから、
  私の腕の程を見ていただかないと話にならないと思いまして。」
 「あ…。」

それはまあ、そうではある。
美味しい佃煮を作る手際のよさに翻弄されていたが、そういえば、
肝心のパンに関しての腕前はまだ全く知らないままだ。

 “いやまあ、
  厳密には弟子になってもいいよと許してはないんだしねぇ。”

すぐに答えを出さなくていい、
弟子とするか否かは、頑張りを見た上で決めてくれと、
そういや彼女自身が言っていたのであり。

 「仕込みや何やで
  これからキッチンを占拠してしまってもご迷惑でしょうから、
  そう、明日にでも。いかがでしょうか?」

そうとなったら、材料を揃えなくちゃと、
結局やはりお買い物にはついてくる彼女という運び。
となれば、

 「小麦粉やら買うのなら重いだろうから…。」

もっともらしい言い訳をしつつ、
イエスも腰を上げての同行の構えとなって。
アパートを出ると、たちまち総身へまといつく、
梅雨明けも間近いらしい、初夏のぬるい空気の中を、
商店街のある駅前までの道
表向き、それは楽しげに軽快に、歩み出した一行なれど、

 《 どういうことでしょうか、イエス。》

教えの弟子とは勝手が違う、
ましてやこちらの正体を明かせぬ相手。
そんなハンデがあるせいか、
これまでになく(?)どうにも振り回されがちだなと、
やや警戒しつつという態勢が解けない、
微妙なもどかしさを滲ませてブッダが訊けば、

 《 う〜ん、もしかして囲い込みに入ったのかなぁ。》

あごのお髭をすりすりと撫でつつ、
こちらも感慨深げな声を出すヨシュア様であり。

 囲い込み?

 ほら、布団を買われたら詰みだって、
 いつぞや君が言ってたアレみたいなものだよと。

ちょみっと微妙な喩えを出したイエスだったりし。

 《 ………………………………………ああ、アレ。》

暮れの帰省時期の、母上からの電話ネタ…でしたよね。
ある意味 自分勝手な采配であれ、
期待させた上にそんな大物を買わせてしまったからにはと、
息子としては屈してしまいそうにもなるという、
そんな絶妙な心理作戦を例えに出したイエスであり。
答えは急がないとしながらも、
認めざるを得ないカード、
出さない訳じゃありませんよという構えではいるのかも。

 《 だとしたら、計画的なところもあるんだね、彼女。》

 《 うん、
   行き当たりばったりで
   無鉄砲なばかりな人かと思っていたけれどもね。》

ここで“狡猾だ”とか“周到で抜け目がない”という評価なぞ出ず、
むしろ見直したと言わんばかりの感慨がそろって洩れる辺り。
善良であってこそという教えを説く 聖人ならではなのかも知れないが、
ペトロやアンデレがいたならば、
そういう甘いところが…と肩をすくめられたやも知れない。
ご当人にもそこは自覚があるものか、

 《 でもまあ、理不尽な先生として嫌がられたいなら、
   いっそ彼女のパンへダメ出しをした方が早いかもしれないしね。》

さすがにこの状況を打破出来るのは自分なのだしと、
イエスもうんうんと もっともらしい頷きをしつつ、
そんな冷酷そうな仕打ちを口にするものの、

 《 そんなこと言って。
   途轍もなく美味しかったらどうするんだい?》

 《 ………どうしよう。》

こらこら、それだから。(苦笑)
冗談抜きに“祝福あれvv”が飛び出しては話にならぬ。
自分で自分の首を絞めるのだけは避けないとと、
そこのところを再確認しておれば、

 「先生〜、ブッダさ〜ん。早く早く。」

ついつい足が遅くなった二人を振り返り、
無邪気に手招きするお嬢さんなのへ。
判ったよと小走りとなったイエスの背を眺めつつ、

 “大丈夫かなぁ…。”

天真爛漫、無垢であれ自然体であれというのが
言ってみりゃあ“専売特許”なイエスだというのは今更な話ではあるけれど。
かつて数々の迫害にも耐え抜いたほど、
柔軟なればこそ折れもせぬとする強靭さを隠し持つ、
説法での頼もしさや威容というものが、
不思議なことに、日常茶飯ではどうしてこうも発揮されぬのかが、
ブッダとしては微妙に歯痒いようで。

 “でも…。”

そこもまた イエスらしさではある。
威厳があっての力強くて頼もしい、
寛容という四角い言いようが似合いの優しさではなくて。
小さき者か弱き者を柔らかく包み込むような、
その支えを得て、頑張って自分で歩きだそうとなるような、
そんな“導き”となるに相応しい“やさしさ”なのだから、

 “そこはしょうがないのかなぁ。”

ああそうだね、
そういうところが捨て置けないし、
好きなところでもあったんだしねと。
世界観も教えへのステップも まるきり違うにもかかわらず、
気が合っての大好きなお友達なのはどうしてかを、
思わぬ形で再認識したブッダ様でもあったようでございます。






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 *う〜ん、色々と無理のある設定なせいか、
  話の組み立てが大変です。
  おまけに集中しにくいほど暑くなってきましたし。
  とりあえず、もうちょっと続きますね?

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